サムエル記上 11

1 さて、ナハシュがアモン人の軍隊を率いて、イスラエル人の町ヤベシュ・ギルアデに迫りました。 ヤベシュの人々は講和を求め、「どうか、お助けください。 あなたがたにお仕えしますから」とすがりました。 2 ナハシュの答えは情け容赦のないものでした。 「よーし、わかった。 ただし、一つ条件がある。 全イスラエルへのみせしめに、おまえたち一人一人の右目をえぐり取らせてもらおう。」 3 なんということでしょう。 ヤベシュの長老たちは困りました。「七日間の猶予を下さい。 その間に、だれも助けに来てくれる者が見あたらなければ、お申し出に従うまでです。」 4 使者がサウルの住むギブアの町に駆けつけ、苦境を訴えると、だれもかれも声をあげて泣きだしました。 5 そこへ、畑を耕しに行っていたサウルが戻って来て、「いったい、どうしたんだ。 なぜ、みんな泣いているのか」と尋ねました。 人々はヤベシュからの知らせを伝えました。 6 その時、神様の霊が激しくサウルに下ったのです。 サウルは満身を怒りに震わせ、 7 二頭の雄牛をつかまえるや、それを切り裂き、使者に託して、イスラエル中に送りました。 そして、「サウルとサムエルに従って戦うことを拒む者の雄牛は、こんな具合にされるぞ」と言い送りました。 神様が人々にサウルの怒りを恐れさせたのでしょう、皆、いっせいに集まって来たのです。 8 ベゼクでその数を調べると、イスラエルから三十万人、さらにユダから三万人が加わっていることがわかりました。 9 そこでサウルは、使者をヤベシュ・ギルアデに送り帰し、「あすの昼過ぎまでには、助けに行くぞ」と告げさせたのです。 この知らせに、どれほど町中が喜びにわき立ったことか! 10 ヤベシュの人々は、敵にこう通告しました。 「降伏いたします。あす、あなたがたのところへまいりますから、どうぞお気のすむようになさってください。」 11 翌朝はやく、サウルはヤベシュ・ギルアデに駆けつけ、全軍を三隊に分けて、アモン人を急襲し、午前中にほとんど全員を打ち殺してしまいました。 残った者たちも散り散りばらばらになり、二人の者が共に残ることさえありませんでした。 12 その時、人々はサムエルに言いました。 「サウルなんかわれわれの王じゃない、などとほざいた連中は、どこでしょうか。 引っぱり出してください。 息の根を止めてやります。」 13 しかし、サウルは答えました。 「きょうはだめだ。 この日、神様はイスラエルを救ってくださったのだから、だれをも殺してはならん。」 14 続いて、サムエルが呼びかけました。 「さあ、みんなギルガルへ行こう。 サウルがわれわれの王であることを、改めて確認するのだ。」…

サムエル記上 12

1 サムエルは、再び人々に語りかけました。 「さあ、どうだ、願いどおり王を立てたぞ。 2 わしは息子をさしおいて、この人を選んだ。 わしは若いころから公の務めについてきたが、今や、白髪頭の老人にすぎない。 3 今わしは、神様の前に、神様が油を注がれた王の前に立っている。 さあ、言い分があるなら言ってくれ。 わしがだれかの牛やろばを盗んだりしたか。 みんなをだましたり、苦しめたりしたことがあるか。 それとも、わいろを取ったことがあるか。 もしそんな事実があったら、言ってくれ。 何かまちがいをしでかしていたなら、償いたいのだ。」 4 「とんでもない。 あなた様からだまし取られたり、苦しめられたりした覚えなど、これっぽちもございません。 それに、あなた様は、わいろなどとは全く無関係なお方です。」 5 「では、わしがあなたがたに対して潔白であることについて、神様ご自身と、神様が油を注がれた王とが、証人となってくださることになるぞ。」 「はい、そのとおりです。」 6 サムエルは厳粛に語りだしました。 「モーセとアロンをお立てになったのは、神様ご自身であった。 この神様が、ご先祖をエジプトから導き出してくださったのだ。 7 さあ、神様の前に、静かに立ちなさい。 ご先祖の時代からこのかた、神様があなたがたに対して、どれほどすばらしいわざを行なってくださったか、何もかも思い出させてやろう。 8 さて、エジプト抑留中のイスラエル人が叫び求めた時、神様はモーセとアロンを遣わし、われわれをこの地へと導いてくださった。 9 ところが、だれもみな、すぐに神様を忘れてしまった。 それで、ハツォル王の率いる軍隊の将シセラの手に落ちたり、ペリシテ人やモアブの王に征服されたりするのを、神様は放っておかれた。 10 そうなると、人々はもう一度、神様に叫び求めたのだ。 神様を捨て、バアルやアシュタロテなどの偶像を拝んだ罪も告白した。 そして、『もし敵の手から救い出していただけるなら、神様だけを礼拝いたします』と泣きすがった。 11 それで神様は、ギデオン、バラク、エフタ、サムエルを遣わして救い出し、安全な生活を取り戻してくださったのだ。 12 ところが、あなたがたときたら、アモン人の王ナハシュをこわがって、自分たちを治める王が欲しい、と言いだした。 実は、神様こそ、すでにあなたがたの王であったのにな。 神様はこれまでもずっと、あなたがたを支配してこられたのだ。 13 さあ、この人があなたがたの選んだ王だ。 よく見ておくがいい。 これで願いはかなったわけだ。 14 そこでだな、あなたがたが神様を恐れかしこみ、命令にも従い、反抗的態度を捨てるなら、そして、王ともども神様に仕える道を歩むなら、すべては順調に運ぶだろう。…

サムエル記上 14

1 一日かそこら過ぎたころでしょうか、王子ヨナタンは側近の若者に言いました。 「さあ、ついて来い。 谷を渡って、ペリシテ人の駐屯地に乗り込もうじゃないか。」 このことは、父サウルには内緒でした。 2 サウルと六百の兵は、ギブア郊外の、ミグロンのざくろの木付近に陣を敷いていました。 3 その中には、祭司アヒヤもいました。アヒヤはイ・カボデの兄弟アヒトブの息子で、アヒトブは、シロで神様の祭司を務めたエリの息子ピネハスの孫にあたります。 ヨナタンが出かけたことは、だれひとり知りませんでした。 4 ペリシテ人の陣地へ行くには、二つの切り立った岩の間の、狭い道を通らなければなりませんでした。 二つの岩は、ボツェツとセネと名づけられていました。 5 北側の岩はミクマスに面し、南側の岩はゲバに面していました。 6 ヨナタンは従者に言いました。 「さあ、あの神様を知らない連中を攻めよう。 神様が奇蹟を行なってくださるに違いない。 神様を知らない軍隊の力など、どれほど大きかろうと、神様には物の数じゃない。」 7 「そうですとも。 おこころのままにお進みください。 お供させていただきます。」 8 「そうか。 じゃあ、こうしよう。 9 われわれが敵の目にとまった時、『じっとしていろ。 動くと殺すぞ!』と言われたら、そこに立ち止まって、やつらを待とう。 10 もし『さあ、来い!』と言われたら、そのとおりにするのだ。 それこそ、やつらを打ち負かしてくださるという、神様の合図だからな。」 11 ペリシテ人は近づいて来る二人の姿を見かけると、「見ろ! イスラエル人が穴からはい出て来るぞ!」と叫びました。 12 そしてヨナタンに、「さあ、ここまで来い。 痛い目に会わせてやるぞ!」と大声で呼びかけたではありませんか。 ヨナタンはそばの若者に叫びました。 「さあ、あとから登って来い。 神様が私たちを助けて、勝利をもたらしてくださるぞ!」 13 二人は手とひざでよじ登りました。 ペリシテ人がしりごみするところを、ヨナタンと若者は右に左に切り倒しました。 14 このとき殺されたのは約二十人で、一くびきの牛が半日で耕す広さの所に死体が散乱しました。…

サムエル記上 15

1 ある日、サムエルがサウルに言いました。 「わしはあなたをイスラエルの王にした。 神様がそうせよとおっしゃったからじゃ。いま確かに、あなたは神様に従っておいでだ。 2 ところで、神様はこう命じておられる。 『アマレク人に罰を下そう。 エジプトから脱出したイスラエル人が領地内を通るのを、拒否したからだ。 3 さあ、攻め上って、アマレク人を一人残らず滅ぼしてしまえ。 男も女も、子供も赤ん坊も、牛も羊も、らくだもろばも徹底的にだ。』」 4 サウルは兵をテライムに集結させました。 兵力は二十万で、それにユダの兵一万が加わりました。 5 そして、アマレク人の町へ行き、谷に陣を敷きました。 6 サウルはケニ人に使者を立て、アマレク人と運命を共にしたくなければ彼らの中から出て行け、と警告しました。 イスラエル人がエジプトから脱出した時、ケニ人は親切にしてくれたからです。 ケニ人はさっそく荷物をまとめ、アマレク人の中から出て行きました。 7 そののちサウルは、ハビラからエジプトの東方、シュルに至る道で、アマレク人を打ち殺しました。 8 王アガグを捕虜にしたほかは、一人残らず殺しました。 9 ところが、サウルとその国民は、羊や牛の最上のもの、子羊のまるまる太ったものを、取り分けておいたのです。 どれもこれも、とても気に入ったからです。 あまり値打のない、つまらないものだけを殺したのです。 10 その時、神様はサムエルに語りかけました。 11 「サウルを王にしたのが残念だ。 二度までもわたしに逆らった。」 サムエルは、そのことばに激しく動揺し、夜通し神様に叫び続けました。 12 翌朝はやく、サウルに会いに出かけようとした時、「サウル王はカルメル山へ行って自分のために記念碑を建て、それからギルガルへ引き返しました」と告げる者がありました。 13 ようやくサムエルが捜しあてると、サウルは上きげんであいさつしてきたのです。 「これは、ようこそ。 ご安心ください。 神様の命令はすべて守りました。」 14 「なに、では、この耳に聞こえてくる、メエメエ、モウモウという鳴き声は、いったい何じゃ。」…

サムエル記上 16

1 ついに、神様からサムエルにお声がかかりました。 「いつまでサウルのことでくよくよしているのか。 もうわたしは、彼をイスラエルの王位から退けてしまったのだ。 さあ、つぼにいっぱいオリーブ油を満たして、ベツレヘムへ行き、エッサイという人を捜しなさい。その息子の一人を新しい王に選んだのだ。」 2 しかしサムエルは、「めっそうもありません! そんなことがサウルの耳に入ったら、それこそ殺されます」と申し立てました。 神様はお答えになりました。 「雌の子牛を一頭とり、『神様にいけにえをささげに行きます』と言えばよい。 3 そして、いけにえをささげる時に、エッサイを呼ぶのだ。 どの息子に油を注いだらよいかは、そのとき指示しよう。」 4 サムエルはお告げのとおり事を運びました。 ベツレヘムでは、町の長老たちが恐る恐る彼を出迎えました。 「これは、これは、わざわざお越しになりましたのは、何か変わったことでも?」 5 「いや、心配はご無用。 神様にいけにえをささげに来たまでじゃ。 いけにえをささげるため、身をきよめて、ついて来なされ。」 サムエルはエッサイと息子たちに聖めの儀式を行ない、彼らも招きました。 6 彼らが来た時、サムエルはそのうちの一人、エリアブをひと目見るなり、「この人こそ、神様がお選びになった人に違いない」と思いました。 7 しかし、神様はおっしゃいました。 「容貌や背の高さで判断してはいけない。 彼ではない。 わたしの選び方は、おまえの選び方とは違う。 人は外見によって判断するが、わたしは心と思いを見るのだ。」 8 次はアビナダブが呼ばれ、サムエルの前に進み出ました。 しかし神様は、「彼も適任ではない」と断言なさるのです。 9 続いてシャマが呼ばれましたが、神様からは、「これもわたしの目にかなわない」という返事しかありません。 同様にして、エッサイの七人の息子が、サムエルの前に立たされましたが、みんな神様から退けられたのです。 10-11 サムエルはエッサイに念を押しました。 「どうも神様は、この息子さんたちのだれをも選んでおられないらしい。 もうほかに息子さんはいないのかね。」 「いいえ、まだ一番下のがおります。 今、牧場で羊の番をしておりますが。」 「すぐ呼びにやってくれ。 その子が戻るまで、食事はお預けだ。」 12 エッサイはすぐに迎えにやりました。 美しい容貌をした、紅顔の少年で、きれいな目を輝かせていました。 その時、「この者だ。彼に油を注げ」と、神様の声がしました。 13 ダビデは兄弟たちの真ん中に立っていました。 サムエルは持って来たオリーブ油を取り、ダビデの頭に注ぎかけました。 すると、神の霊がダビデに下り、その日から、偉大な力を身に受けたのです。 こののち、サムエルはラマへ帰りました。 14…

サムエル記上 17

1 ところで、ペリシテ人は軍隊を召集して戦いをしかけ、ユダのソコとアゼカとの間にあるエフェス・ダミムに陣を敷きました。 2 サウルは応戦するため、エラの谷に兵力を増強しました。 3 こうしてペリシテ人とイスラエル人は、谷を隔てた丘の上で、にらみ合ったのです。 4-7 その時、ゴリヤテというガテ出身のペリシテ一の豪傑が、陣営から出て来て、イスラエル軍に向き直りました。 身長が三メートル以上もある巨人で、青銅のかぶとをかぶり、百キロもあるよろいに身を固め、青銅のすね当てを着け、十二キロもある鉄の穂先のついた、太い青銅の投げ槍を持っていました。 盾持ちが、大きな盾をかかえて先に立って歩いていました。 8 仁王立ちのゴリヤテは、イスラエルの陣営に響き渡るように、大声で叫びました。 「よく、こうも大ぜいそろえたもんだな。 おれはペリシテ人の代表だ。 おまえらも代表を一人選んで一騎打ちをし、それで勝負をつけようじゃないか。 9 もし、おまえらの代表の手にかかっておれ様が倒れでもすりゃあ、おれたちは奴隷になるさ。 だがな、このおれ様が勝ちゃあ、おまえらが奴隷になるんだ。 10 さあ、どうした。 イスラエル軍には人がいないのか。 おれと戦う勇気のあるやつは出て来い。」 11 サウルとイスラエル軍は、これを聞いてすっかり取り乱し、震え上がってしまいました。 12 ところで、ダビデには七人の兄がいました。 ダビデは、ユダのベツレヘムに住む、エフラテ人エッサイ老人の息子でした。 13 三人の長兄、エリアブとアビナダブとシャマは、この戦いに義勇兵として従軍していたのです。 14-15 末っ子のダビデは、サウルの身辺の警護にあたりながら、時々ベツレヘムへ帰り、父の羊を飼う仕事を手伝っていました。 16 ところで、例の巨人は、四十日間、毎日、朝と夕の二回、イスラエル軍の前に姿を現わし、これ見よがしにのし歩いてみせるのでした。 17 ある日、エッサイはダビデに言いつけました。 「さあ、この炒り麦一枡と、パン十個を、兄さんたちに届けてくれないか。 18 このチーズは隊長さんに差し上げてな、あの子たちの様子を見て来ておくれ。 手紙をことづかるのも忘れんようにな。」 19 サウルとイスラエル軍は、エラの谷に陣を敷いていました。…

サムエル記上 18

1-3 王が一とおりの質問を終えたあと、ダビデは王子ヨナタンに紹介されました。 二人はすぐに仲良くなり、深い友情で結ばれました。ヨナタンはダビデを義兄弟にすると誓い、 4 自分の上着、よろいかぶと、剣、弓、帯を与えて、盟約を結んだのです。 王は、今やダビデをエルサレムにとどめ、もはや家に帰そうとはしませんでした。 5 ダビデは王の特別補佐官として、いつも任務を完全に果たしました。 それでとうとう、軍の指揮官に任命されたのです。 この人事は、軍部からも一般からも、大いに喜ばれました。 6 ところで、ダビデがゴリヤテを倒したあと、勝ち誇ったイスラエル軍が意気揚々と引き揚げて来た時、ちょっとしたことが起こったのです。 あらゆる町々から沿道にくり出した女たちが、サウル王を歓迎し、タンバリンやシンバルを鳴らして、歌いながら喜び踊りました。 7 ところが、女たちが歌ったのはこんな歌でした。「サウルは千人を殺し、ダビデは一万人を殺した!」 8 これを聞いて、王が腹を立てないはずはありません。 「何だと。ダビデは一万人で、このわしは千人ぽっちなのか。 まさか、あいつを王にまつり上げる気じゃなかろうな。」 9 この時から、王の目は、ねたみを帯びてダビデに注がれるようになりました。 10 事実、翌日から、神様に遣わされた悩みの霊がサウル王に襲いかかりました。 すると、まるで狂人のようにわめき始めたのです。 そんな王の心を静めようと、ダビデはいつものとおり竪琴をかなでました。 ところが王は、もてあそんでいた槍を、 11-12 いきなり、ダビデめがけて投げつけたではありませんか。 ダビデを壁に突き刺そうというのです。 しかし、さっと身をかわしたダビデは、危うく難を逃れました。 一度ならず二度も、そんなことがあったのです。 それほど王はダビデを恐れ、激しい嫉妬にかられていました。これもみな、神様がサウル王を離れて、ダビデとともにおられたからです。 13 とうとう王は、ダビデを自分の前から退けることにし、職務も千人隊の長にまで格下げしました。 しかし王の心配をよそに、ダビデはますます人々の注目を集めるようになったのです。 14 ダビデのやることなすことは、みな成功しました。 神様がともにおられたからです。 15-16 サウル王はますますダビデを恐れるようになりました。 イスラエルとユダの人々はみな、ダビデを支持しました。 ダビデが国民の側に立って行動したからです。 17 ある日、王はダビデを呼んで言いました。 「わしはおまえに、長女のメラブをやってもよいと思っておる。 そのためにまず、神様の戦いを勇敢に戦い、真の勇士である証拠を見せてくれ。」 王は内心、「ダビデをペリシテ人との戦いに行かせ、敵の手で殺してしまおう。 わしの手を汚すまでもない」と考えたのです。 18 ダビデは答えました。 「私のような者が王家の婿になるなど、とんでもございません。 父の家系は取るに足りません。」 19…

サムエル記上 19

1 ついにサウル王は、側近や息子のヨナタンにまで、ダビデ暗殺をそそのかすようになりました。 しかしヨナタンは、ダビデと深い友情で結ばれていたので、 2 父のたくらみをダビデに知らせました。「あすの朝、野原に隠れ場所を見つけ、潜んでいてくれたまえ。 3 おやじをそこまで連れ出すから。 そこで、君のことについて話をする。何かわかったら、さっそく知らせるよ。」 4 翌朝、ヨナタンは父と話し合い、ダビデの正しさを力説し、敵視しないでくれと頼みました。 「ダビデは、一つも害をもたらしたりしていませんよ。 それどころか、いつも精一杯、助けてくれました。 5 彼が命がけでゴリヤテを倒した時のことを、お忘れになったんですか。 その結果、神様がイスラエルに大勝利をもたらしてくださったのではありませんか。あの時、父上はほんとうにお喜びになりました。 それなのに、なぜ今になって、罪もない者を殺害しようとなさるんです? そんなことをする理由など少しも見あたりません。」 6 ついにサウル王もうなずき、「神様が生きておられる限り、ダビデは殺さない」と誓いました。 7 あとで、ヨナタンはダビデを呼び、そのいきさつを話しました。 そしてダビデを王のところへ連れて行くと、すべてが元どおり平穏に取り計られるようになりました。 8 まもなくして戦いが始まりましたが、ダビデは兵を率いてペリシテ人と戦い、多数を討ち取りました。ペリシテの全軍は旗を巻いて遁走したのです。 9-10 ところが、ある日のことです。 サウル王は家で腰かけ、ダビデのかなでる竪琴に耳を傾けていました。 と、その時、急に、神様から遣わされた悩みの霊が王を襲ったのです。 あっという間もなく、王は手にしていた槍をダビデに投げつけ、刺し殺そうとしました。ダビデはとっさに身をかわし、夜になるのを待って逃げ出しました。槍は壁の横木に突き刺さったままでした。 11 王は兵をやってダビデの家を見張らせました。 朝になって出て来るところをねらって、殺そうというのです。 ミカルはダビデに危険を知らせました。 「逃げるなら、今夜のうちですわ。 朝になったら殺されてしまいます。」 12 ミカルはダビデを助けたい一心で、窓から地面につり降ろしてやりました。 13 そして、代わりに偶像を寝床に入れ、すっぽり毛布をかけました。 頭は山羊の毛で編んだものを枕にのせました。 14 そこへ、ダビデを捕らえて王のもとへ連行しようと、兵隊たちが踏み込んで来ました。 ミカルは、ダビデは病気で、ベッドから動かせないと告げたのですが、 15 王は、ベッドごとでも連れて来るように命じました。 そのまま殺してしまうつもりだったのです。…

サムエル記上 20

1 今や、ラマのナヨテも危険です。 ダビデは逃げ出し、ヨナタンに会いに来ました。 ダビデは言いました。 「私が何をしたというのだろう。 なぜ、お父上は私なんかの命を、つけねらわれるのだろう。」 2 「そんなばかな! おやじが、そんなことをたくらんでいるはずがない。 どんなささいなことでも、自分の考えを私に話してくれるんだよ。 まして、こんなことを隠し立てするはずがないじゃないか。ありえないことだよ。」 3 「そうは言うけれど、君が知らないだけだよ。 お父上は、私たちが親友だってことも、よく知っておられる。 だから、『ダビデを殺すことは、ヨナタンには黙っておこう。 悲しませるといけないから』と思っておられるに違いない。 ほんとうに、私は死と背中合わせなんだ。 神様と、君の命にかけて誓うよ。」 4 「何か、してあげられることがあるかい。 遠慮なく言ってくれ。」 5 「あすから新月の祝いが始まるね。 これまではいつも、私はこの祝いの席にお父上と同席してきた。 しかし、あすは野原に隠れ、三日目の夕方まで潜んでいるつもりだ。 6 もしお父上が、私のことをお尋ねになったら、こう言ってくれないか。 『ベツレヘムの実家へ行きたいと願い出たので帰しました。 年一回、一族全員が集まるんだそうです。』 7 もしお父上が、『そうか』とうなずかれるなら、私は取り越し苦労をしていたことになる。 しかし、もしご立腹になるなら、私を殺すおつもりだろう。 8 義兄弟の契りを結んだ者として、どうか、このことを引き受けてくれ。 もし私がお父上に罪を犯したのであれば、君の手で私を殺してかまわない。 しかし、私を裏切ってお父上の手に引き渡すようなまねだけは、しないでくれ。」 9 「そんなことするわけがないよ! おやじが君をねらっているとわかったら、君に黙ってなんぞいるもんか。」 10 「お父上が腹を立てておられるかどうか、どんな方法で知らせてくれますか。」 11 「そうだな、いっしょに野原へ出てみよう。」 二人は連れ立って出かけました。 12 ヨナタンはダビデに言いました。 「イスラエルの神様にかけて約束するよ。 あすの今ごろ、遅くともあさっての今ごろには、君のことを話してみよう。 そうして、おやじの気持ちを、さっそく知らせる。 13 もしおやじが腹を立て、君の命をねらっているとわかったら、必ず知らせるよ。 もし知らせずに、君の逃亡を妨げるようなことがあれば、神様に殺されたってかまわない。 かつて神様がおやじとともにおられたように、君とともにおられるように。 14 お願いだ。私が生きている限り、神様の愛と親切を示してくれ。 15…

サムエル記上 21

1 ダビデは祭司アヒメレクに会うため、ノブの町へ行きました。アヒメレクはダビデを見ると、ただならぬものを感じて尋ねました。 「どうして、お一人で? お供はだれもおらんのですか。」 2 「陛下の密使として来たんです。 私がここにいることは、だれにも秘密です。 供の者とは、あとで落ち合う手はずになっています。 3 ところで、何か食べる物はないでしょうか。 パン五つでも、何かほかの物でもいいんですが、いただけましたら……。」 4 「それが、あいにく普通のパンを切らしておりましてね。 あるのは供え物のパンだけですよ。 もしお供の若者たちが女と寝たりしていなければ、それを差し上げてもかまわんのですがね……。」 5 「ご心配なく。 遠征中は、むちゃなまねはさせていませんから。普通の旅でも、身を慎むことになっているんです。 まして、今回のような場合は、なおさらですよ。」 6 そこで祭司は、ほかに食べ物がなかったので、供え物のパンをダビデに恵んでやりました。 神の天幕の中に供えてあったパンです。 ちょうどその日、できたての新しいパンと置き替えたばかりでした。 7 たまたま、その時、サウル王の家畜の管理をしているエドム人ドエグが、きよめの儀式のために、そこにいました。 8 ダビデはアヒメレクに、槍か剣はないかと尋ねました。 「実は、あまりにも急を要するご命令だったもんですから、取るものも取りあえず、大急ぎで出かけて来たんですよ。 武器も持って来なかったしまつです。」 9 「それはお困りでしょう。 実は、あなた様がエラの谷で打ち殺した、あのペリシテ人ゴリヤテの剣があるんですよ。 布に包んで押し入れにしまってあります。 武器といえばそれだけですが、よろしかったら、お持ちください。」 「それはありがたい。 ぜひ、いただこう。」 10 ダビデは急いでいました。 サウル王の追跡の手が伸びているかもしれません。 早くガテの王アキシュのもとにたどり着きたかったのです。 11 ところが、アキシュの家来たちは、ダビデの出現を喜ばないふうで、「あの人はイスラエルの最高首脳ではないか」とうわさしていました。 「いやあ、確かにそうだ。 だれもが踊りながら、『サウル王が殺したのは千人で、ダビデが殺したのは一万人』とか歌って、ほめそやした人に違いないぞ。」 12 ダビデはこんな話をもれ聞いて、アキシュ王が自分をどう扱うかわからないと心配になりました。 13 それで、気違いのふりをすることにしたのです。 戸をかきむしってみたり、ひげによだれをたらしたりしたものですから、 14-15…