サムエル記下 12

1-2 神様は預言者ナタンを遣わし、ダビデにこんな話を聞かせました。 「ある町に二人の人がおりました。 一人は大金持ちで、たくさん羊や山羊を持っていました。 3 もう一人はとても貧乏で、財産といえば、苦労してやっと手に入れた、雌の子羊一頭だけでした。 その子羊を、子供たちも大そうかわいがり、食事の時など、彼は自分の皿やコップにまで口をつけさせるほどでした。 まるで実の娘みたいに、しっかり腕に抱いて寝るのでした。 4 そんなある日、金持ちのほうに客が一人ありました。 ところが、客をもてなすのに、自分の群れの子羊を使うのは惜しいとばかり、貧しい男の雌の子羊を取り上げ、それを焼いてふるまったのです。」 5 ここまで聞くと、ダビデはかんかんに腹を立てました。 「生ける神様に誓うぞ。 そんなことをする奴は死刑だ! 6 償いもさせろ。 貧しい男に子羊四頭を返すのだ。 なにしろ、盗んだだけでなく、そいつには、まるであわれみの心というものがないんだからな。」 7 すると、ナタンはダビデに言いました。 「陛下です。 陛下こそ、その大金持ちなのです! イスラエルの神様は、こう仰せられます。 『わたしはおまえをイスラエルの王とし、サウルの迫害から救い出してやった。 8 そして、サウルの宮殿や妻たち、イスラエルとユダの王国も与えてやったではないか。 なお足りないというなら、もっともっと多くのものを与えてやっただろう。 9 それなのに、どうして、わたしのおきてをないがしろにして、こんな恐ろしい罪を犯したのか。 おまえはウリヤを殺し、その妻を奪ったのだ。 10 よいか、これからは殺害の恐怖が常におまえの家を脅かす。 ウリヤの妻を奪って、わたしの顔につばするようなまねをしたからだ。 11 はっきり言っておく。 このしわざの報いで、おまえは家族の者から背かれる。 また、妻たちはほかの者に取られる。 男たちが白昼公然と、彼女たちのところに入って寝るだろう。 12 おまえは人目を忍んで事を行なったが、わたしは全イスラエルの目の前で、おまえをこんな目に会わせよう。』」 13 「私は神様に罪を犯しました」と、ダビデはナタンに告白しました。 ナタンは答えました。 「そのとおりだ。 しかし、神様はその罪を赦してくださった。 だから、罰を受けて死ぬことはない。 14 ただし、神に敵する者たちに、神様をあなどる絶好の機会を与えたので、生まれてくる子供は死ぬ。」 15 こののち、ナタンは家へ戻りました。 神様は、バテ・シェバが産んだ子を、重い病気にかからせました。…

サムエル記下 13

1 ダビデの息子の一人、アブシャロム王子には、タマルという美しい妹がいました。 ところが、タマルの異母兄にあたるアムノン王子が、彼女に深く思いを寄せるようになったのです。 2 アムノンはタマルへの恋に苦しみ、床についてしまいました。 未婚の娘と若者とは厳格に隔てられていて、話しかける機会さえなかったからです。 3 ところで、アムノンには、悪賢い友人が一人いました。 ダビデの兄シムアの息子で、いとこにあたるヨナダブです。 4 ある日、ヨナダブはアムノンに尋ねました。 「何か心配事でもあるのかい。 どうして、王子ともあろう者が、日に日に、それほどやつれていくんだね。」 アムノンは打ち明けました。 「ぼくは異母妹のタマルを愛してしまった。」 5 「なんだ、そうか。 じゃあ、よい方法を教えてやろう。 床に戻って、仮病を使うんだ。 父君ダビデ王が見舞いに来られたら、タマルをよこして、食事を作らせてくださいと頼めよ。 タマルのこしらえたものを食べればきっとよくなる、と申し上げるんだ。」 ヨナダブはこう入れ知恵しました。 6 アムノンは言われたとおりにしました。 王が見舞いに来ると、「妹タマルをよこして、食事を用意させてください」とだけ願い出たのです。 7 ダビデはうなずき、タマルに、アムノンの住まいへ行き、何か手料理をごちそうしてやってくれ、と頼んだのです。 8 タマルはアムノンの寝室を訪れました。 アムノンは、タマルが粉をこねてパンを作る姿を、じっと見つめていました。 タマルはアムノンのために、特においしいパンを焼き上げたのです。 9 ところが、それをお盆に載せてアムノンの前に差し出しても、口に入れようとしません。 アムノンは召使に、「みんな、下がってくれ」と命じたので、一同は部屋から出て行きました。 10 すると、彼はタマルに言ったのです。 「もう一度、そのパンをこっちに運んで来て、食べさせてくれないか。」 タマルは言われるままに、そばへ行きました。 11 ところが、目の前に立ったタマルに、アムノンは、「さあ、タマル。 おまえはぼくのものだ」と詰め寄ったのです。 12 彼女はびっくりして叫びました。 「おやめになって、ね、こんなばかなこと。 お兄様! いけないわ。 イスラエルでは、それがどれほど重い罪か、ご存じでしょう。 13 こんな辱しめを受けたら、私、どこにも顔出しできません。 お兄様だって、国中の笑い者になりますわ。 どうしてもというのなら、今すぐにでも、お父様に申し出てちょうだい。 きっと二人の結婚を許してくださるわ。」 14 しかし、アムノンは耳を貸そうともせず、むりやり、タマルを自分のものにしてしまったのです。…

サムエル記下 14

1 ヨアブ将軍は、アブシャロムに会いたがっている王の気持ちを察しました。 2-3 そこで、知恵者として評判の高いテコアの女を呼び寄せ、王に会ってくれないか、と頼みました。 そして、どういうふうにして会えばいいかを指示したのです。 「喪中の女を装うのだ。 喪服をまとい、髪を振り乱し、長いこと深い悲しみに打ちひしがれてきたふりをするのだ。」 4 女は王の前に出ると、床にひれ伏して哀願しました。 「王様! どうぞ、お助けくださいまし!」 5-6 「いったい、どうしたのだ。」 「私はやもめ女でございます。 息子が二人おりましたが、それが野原でけんかをしたのです。 だれも仲裁に入ってくれませんで、片方が殺されてしまいました。 7 すると、親せき中の者が寄ってたかって、残った息子を引き渡せと申すんでございます。 兄弟を殺したような奴は生かしておけないと言うんです。 でも、そんなことになれば、跡継ぎが絶えてしまいます。 夫の名も、この地上から消え去ってしまいます。」 8 「わかった。 任せておけ。 だれもおまえの息子に手出しできんように、取り計らってやるぞ。」 9 「ありがとうございます、陛下。 こうしてお助けくださったことで、もし陛下が責めをお受けになるようなことがございましたら、みな私の責任でございます。」 10 「そんな心配はいらん。 つべこべ言う者がおれば、わしのもとへ連れて来い。 二度と文句が言えんようにしてやる。」 11 「どうか、神かけて、お誓いくださいまし。 息子には指一本ふれさせやしない、と。 これ以上、血を見るのはたまりません。」 「神かけて誓おう。 おまえの息子の髪の毛一本もそこなわれはせんとな。」 12 「どうぞ、もう一つだけ、お願いを聞いてくださいまし。」 「かまわぬ。 申すがよい。」 13 「陛下、どうして、私にお約束くださったことを、神様の国民ぜんぶに、当てはめてくださらないのですか。 ただ今のような裁きをつけてくださった以上、陛下はご自分を有罪となさったのでございます。 と申し上げますのも、追放されたご子息様のお戻りを、拒んでおられるからでございます。 14 私どもはみな、いつかは死ななければなりません。 人のいのちは、地面にこぼれた水のようなもので、二度と集めることはできません。 もし陛下が、追放中のご子息様をお迎えになる道を講じなさいますなら、神様の末長い祝福がございますでしょう。 15-16 このはしためが、息子のことでお願いに上がりましたのも、私と息子のいのちが、脅かされていたからでございます。 私は、『きっと王様は、訴えを聞き入れ、私どもをイスラエルから消し去ろうとしている者の手から、助け出してくださるだろう。…

サムエル記下 15

1 このあとアブシャロムは、みごとな戦車とそれを引く馬を買い入れました。 さらに、自分を先導する五十人の馬丁を雇いました。 2 彼は、毎朝はやく起き、町の門へ出かけました。 王のところへ訴えを持ち込む者を見つけると、そのつど呼び止めて、さも関心があるように、訴えを聞くのです。 3 だれに対しても、こんなふうに気をそそるのでした。 「この件じゃあ、君のほうが正しいようだねえ。 しかし、気の毒だが、王の側には、こういう訴えに耳を貸してくれる者はいないだろうな。 4 私が裁判官だったらなあ。 訴えのある人はみな、私のところへ来れるし、もちろん、公平な裁判もできるんだが……。」 5 アブシャロムはまた、だれか頭を下げてあいさつする者がいると、決してそのままやり過ごさず、素早く手を差し伸べて握りしめるのでした。 6 こうして、アブシャロムは巧みにイスラエル中の人心をとらえていったのです。 7-8 それから四年後、アブシャロムは王に願い出ました。 「神様にいけにえをささげるため、ヘブロンへ行かせてください。 ゲシュルにおりました時、『もしエルサレムにお帰しくださいますなら、いけにえをささげて感謝いたします』と、誓願を立てていたのです。 それを果たしたいのです。」 9 王は、「よかろう。 誓願を果たしに行くがよい」と許可しました。 アブシャロムはヘブロンへ発ちました。 10 ところが、ヘブロン滞在中に、イスラエル各地に密使を送り、王への反逆をそそのかしたのです。 密書には、こう書かれていました。 「ラッパが吹き鳴らされたら、アブシャロムがヘブロンで王になったのだ、とご承知ください。」 11 アブシャロムは、エルサレムを出る時、客として二百人の者を招待し、同伴して来ていました。 もちろん、彼らはアブシャロムのもくろみなど、全く知らなかったのです。 12 アブシャロムは、いけにえをささげている間に、ダビデの顧問の一人で、ギロに住むアヒトフェルを呼び寄せました。 アヒトフェルは、増え広がる他の賛同者同様、アブシャロムを支持すると断言しました。 それで、この謀反は非常に大がかりなものになりました。 13 エルサレムのダビデ王のもとには、すぐに急使が送られました。「全イスラエルがアブシャロムになびいて、謀反を企てています!」 14 ダビデは即座に命じました。 「では、すぐに逃げのびるのだ。 早くしないと、手遅れになるぞ! アブシャロムが来る前に町から抜け出せば、われわれもエルサレムの町も助かるだろう。」 15 側近たちは、「私どもは陛下にお従いします。 お考えどおりになさってください」と答えました。 16…

サムエル記下 16

1 ダビデが山の頂上から少し下った時、メフィボシェテ家の執事ともいうべきツィバが、ようやく追いつきました。 二頭のろばに、パン二百個、干しぶどう百ふさ、ぶどう百ふさ、それにぶどう酒一たるを積んでいます。 2 王は、「いったい何のためだ」と尋ねました。 「ろばは、ご家族のお乗り物にと存じまして。 パンと夏のくだものは、若いご家来衆に召し上がっていただき、ぶどう酒は、荒野で弱った方々に、飲んでいただきとうございます。」 3 「メフィボシェテはどこにおる。」 「エルサレムに残っております。 あの方は、『今こそ、王になれる! きょうこそ、祖父サウルの王国を取り戻すのだ』と申しておりました。」 4 「それがかなったら、メフィボシェテのものを全部、おまえにやるぞ。」 「ありがとうございます、陛下。 心からお礼申し上げます。」 5 ダビデの一行がバフリムの村を通り過ぎると、一人の男がのろいのことばをあびせながら、出て来ました。 男はゲラの息子シムイで、サウル一族の者でした。 6 彼は王と側近、さらに護衛の勇士のだれ彼かまわず、石を投げつけました。 7-8 「出て行けっ! この人殺し! 悪党め!」 この時とばかり、ダビデをののしります。 「よくも、サウル王とその家族を殺してくれたな。 ざまあ見ろ。 罰があたったのだ! 王位を盗んだおまえが、今は、息子のアブシャロムに王座を奪われた。 これが神様のおぼしめしというもんだ! 今度は、おまえが同じ手口で殺されるんだ!」 9 あまりのひどさに、アビシャイが申し出ました。 「あの犬畜生に、陛下をのろわせておいてよいものでしょうか。 あいつの首をはねさせてください!」 10 「ならぬ! 神様が彼にのろわせておられるのだ。 どうして、はばめよう。 11 実の息子がわしを殺そうとしておるのだぞ。 このベニヤミン人は、のろっているだけではないか。 放っておけ。 神様がそうさせておられるのだから。 12 おそらく神様は、不当な扱いだとご承知の上で、それに甘んじる私に、あののろいに代えて祝福を下さるだろう。」 13 一行がなおも進んで行くと、シムイも丘の中腹をダビデと平行して歩き、のろったり、石を投げたり、ちりをばらまいたりしました。 14 王も従者も全員、くたくたに疲れていました。 それで一行はしばらく休息することにしました。 15…

サムエル記下 17

1 「さて」と、アヒトフェルはことばを続けました。 「私に一万二千の兵を任せてくだされ。 今夜にも、王の追跡に出かけましょう。 2-3 疲れて気弱になっているところを襲うのです。 一味は大混乱に陥り、われ先にと逃げ出すでしょう。 その中で、王だけを殺します。 あとの連中は生かしておいて、あなた様のもとに連れてまいりましょう。」 4 アブシャロムとイスラエルの全長老は、その計画に賛成しました。 5 ところが、アブシャロムは、「アルキ人フシャイの意見も聞いてみよう」と言いだしたのです。 6 フシャイが姿を見せると、一応アヒトフェルの考えを披露したあとで、こう尋ねました。 「おまえの意見はどうか。 アヒトフェルの言うとおりにすべきだろうか。 もし反対なら、はっきり言ってくれ。」 7 「恐れながら申し上げます。 この度のアヒトフェル殿のお考えには、賛成いたしかねますな。 8 ご承知のように、お父君とその部下たちは、りっぱな勇士でございます。 今は、子熊を奪われた母熊のように、気が立っておいででしょう。 そればかりか、戦いに慣れておられるお父君は、兵卒とともに夜を過ごしたりはなさいますまい。 9 必ず、どこかのほら穴にでも、隠れておいでのはずです。 もしそのお父君が襲いかかり、こちらの幾人かが切り倒されでもしたら、兵が混乱し、口々に『味方がやられたぞ』と叫びだすでしょう。 10 そうなると、どんなに勇敢な者でも、たといライオンのように強い勇士でも、ひるむでしょうな。 なにしろ、イスラエルの者はみな、お父君が偉大な勇者であり、その兵士たちも武勇にすぐれている、と知っておりますからな。 11 むしろ、こうしてはいかがかと考えます。 まず、北はダンから南はベエル・シェバに至るまでの、イスラエル全国から兵を集め、強力な軍隊をおつくりになることです。 その大軍を率いて、自ら出陣なさるのがよろしかろうと存じます。 12 そして、お父君を見つけしだい、全軍もろとも一気に滅ぼすのです。 一人も生かしておいてはなりません。 13 もしどこかの町へ逃げ込んだら、全軍をその町に差し向け、城壁に綱をかけて近くの谷まで引いて行くよう、お命じなさい。 そこには、一かけらの石も残りますまい。」 14 アブシャロムをはじめ人々はみな、「フシャイの意見のほうが、アヒトフェルの考えよりすぐれている」と思いました。 実は、これはみな、アブシャロムを痛めつけようという、神様の意図によることでした。 実際には、退けられたアヒトフェルの進言のほうが、ずっと上策だったのです。 15 フシャイは祭司のツァドクとエブヤタルに、アヒトフェルの思惑と、対案として出した自分の意見を説明しました。 16…

サムエル記下 18

1 さて、ダビデは軍隊を再編成し、連隊長や中隊長を任命しました。 2 全軍を三隊に分け、ヨアブと、その兄弟で同じくツェルヤの息子アビシャイと、ガテ人イタイに、それぞれ指揮させました。 王は、自ら陣頭に立ちたいと考えていましたが、家来たちの猛反対に会いました。 3 「それは断じてなりません。 私どもが逃げ出そうと、半数が死のうと、彼らには、どうでもよいことなのです。 目あては陛下お一人なのですから。 陛下は、私どもの一万人にもあたるお方です。ですから、今は、この町においでになって、必要な時に助け舟を出してくださればよろしいのです。」 4 ついに王も、「わかった。 言うとおりにしよう」とうなずきました。 王は町の門に立って、全軍が出陣するのを見送りました。 5 王はヨアブ、アビシャイ、イタイに、「わしに免じて、あの若いアブシャロムには、手ごころを加えてやってくれ」と命じました。全兵士は、王が指揮官たちにそう命じるのを聞いていました。 6 こうして、戦いはエフライムの森で始まったのです。 7 イスラエル軍はダビデ軍に撃退され、ばたばたと兵士が倒れて、その日のうちに、なんと二万人がいのちを落としました。 8 戦いはこの地方一帯に広がり、殺された者よりも、森で行方不明になった者のほうが、はるかに多い有様でした。 9 戦いの最中、アブシャロムは幾人かのダビデ軍兵士に出くわしました。 らばに乗って逃げていたアブシャロムは、大きな樫の木の枝がおおいかぶさる下を通り抜ける時、髪を枝に引っかけてしまいました。 らばはそのまま行ってしまい、アブシャロムだけが宙づりになったのです。 10 ダビデの家来の一人がそれを見て、ヨアブに知らせました。 11 ヨアブは、「な、なんだと! やつを見つけしだい、どうして殺さなかったのだ。 たんまり褒美を取らせ、将校にでも取り立ててやったのに」と、詰め寄りました。 12 「どれほどご褒美がいただけましょうとも、そんなことはごめんです。 私どもはみな、陛下が指揮官のお三方に『わしに免じて、若いアブシャロムに手を下すのだけはやめてくれ』とお頼みになったのを、聞いたんですから。 13 それに、もし私が命令に背いて王子様を殺したとして、その張本人が陛下に知れた場合、将軍、あなた様が真っ先に、私を非難なさるんじゃありませんか。」 14 「たわ事を言うな!」 こう言い捨てると、ヨアブは三本の槍を取り、宙づりになったままで息も絶え絶えの、アブシャロムの心臓を突き刺しました。 15 ヨアブ直属の若いよろい持ち十人も、アブシャロムを取り巻き、とどめを刺しました。…

サムエル記下 19

1 王がアブシャロムのために悲嘆にくれている、という情報が、やがてヨアブのもとにも届きました。 2 王が息子のために嘆き悲しんでいると知って、その日の勝利の喜びはどこへやら、深い悲しみに包まれてしまいました。 3 全軍は、まるで負け戦のように、すごすごと町へ引き揚げました。 4 王は手で顔をおおい、「ああ、アブシャロム! ああ、アブシャロム、せがれや、せがれや!」と泣き叫んでいます。 5 ヨアブは王の部屋を訪ね、こう申し上げました。 「私どもは、きょう、陛下のおいのちをはじめ、王子様や王女様、奥方様や側室方のおいのちをお救い申し上げました。 それなのに、陛下は嘆き悲しんでおられるばかりで、まるで私どもが悪いことでもしたかのようです。 全く恥をかかされましたよ。 6 陛下は、ご自分を憎む者を愛し、ご自分を愛する者を憎んでおられるようですな。 私どもなどは、どうなってもよろしいんでしょう。 はっきりわかりました。 もしアブシャロム様が生き残り、私どもがみな死にましたら、さぞかし満足なさったことでしょう。 7 さあ、今、外に出て、兵士に勝利を祝ってやってください。 神様に誓って申し上げます。 そうなさいませんなら、今夜、全員が陛下から離れていくでしょう。 それこそ、ご生涯で最悪の事態となりますぞ。」 8-10 そこで王は出て行き、町の門のところに座りました。 このことが町中に知れ渡ると、人々は続々と王のもとへ詰めかけました。 一方、イスラエルのここかしこで、論議がふっとうしていました。 「どうして、ダビデ王にお帰りいただく話をせんのか。 ダビデ王はわしらを、宿敵ペリシテ人から救い出してくださったお方だぞ。 せっかく王に仕立て上げたアブシャロム様は、ダビデ王を追って野に出たが、あえなく戦死なさった。 さあ、拝み倒してでも、ダビデ王に帰っていただき、もう一度、位についていただこうじゃないか。」 どこでも、こんな話で持ちきりでした。 11-12 そこでダビデは、祭司のツァドクとエブヤタルを使いに出し、ユダの長老たちにこう伝えさせました。 「どうして、王の復位を最後までためらうのか。 国民はすっかりその気でいるぞ。 ぐずぐずしているのは君たちだけだ。 もともと、君たちはわしの兄弟、同族、まさに骨肉そのものではないか!」 13 また、アマサにも伝えました。 「甥のおまえに、決して悪いようにはせんぞ。 ヨアブを退けても、おまえを最高司令官にしてやる。 もしこれが嘘なら、神様に殺されたってかまわん。」 14 そこでアマサは、ユダの指導者たちを説得しました。 一同は説得に応じ、口をそろえて王に、「どうぞ、ご家来衆ともども、お戻りください」と頼んできました。 15 いよいよ、エルサレムめざして出発です。 ヨルダン川にさしかかると、まるでユダ中の人々が、王をギルガルまで出迎えたかのような人出で、川越しを手伝おうとしました。 16 ベニヤミン人ゲラの息子で、バフリム出身のシムイも、王を迎えようと駆けつけました。 17 彼のあとには、ベニヤミン部族の人々が千人ほどついて来ていましたが、その中に、かつてサウル王に仕えたツィバとその十五人の息子、二十人の家来などもいました。 一行は王の来る前にヨルダン川に着こうと、息せき切って来たのです。 18…

サムエル記下 20

1 その時、ベニヤミン人ビクリの息子でシェバというならず者が、ラッパを吹き鳴らし、大声でわめき始めました。 「ダビデなんかくそ食らえだ。 さあ、みんな行こう! こんな所でぐずぐずするな! ダビデなんか王じゃねえよ!」 2 すると、ユダとベニヤミン以外のイスラエル人はみな、ダビデから離れ、シェバのあとを追ったのです! ユダの人々は王のもとにいて、ヨルダン川からエルサレムまでの全道程を従って行きました。 3 殿に着くと、王はさっそく、留守を守らせていた十人のそばめを別棟に移し、軟禁させました。 女たちの生活は保証されていましたが、王が通うことは、二度とありませんでした。 女たちは死ぬまで、未亡人同様に暮らしたのです。 4 それから、王はアマサに、三日以内にユダの軍隊を召集し、結果を報告せよ、と命じました。 5 アマサはユダの兵士を動員するために出て行きましたが、約束の三日間でそれを果たすことができませんでした。 6 それで、ダビデはアビシャイに指令しました。 「あのシェバのやつを放っておくと、アブシャロムより手に負えなくなるぞ。 急げ。 警護の兵を連れて追いかけるんだ。 わしらの手の届かない、城壁のある町に逃げ込まれたら、どうしようもないぞ。」 7 アビシャイはヨアブとともに、ヨアブ配下の精兵とダビデ王直属の護衛兵を率いて、シェバを追いました。 8-10 ところが、ギブオンにある大きな石のところまで来た時、アマサとばったり出くわしたのです。 軍服を着ていたヨアブは、短剣をわきに差していました。彼はあいさつするように駆け寄りながら、そっと短剣のさやを払ったのです。 「やあ、元気かね」と、ヨアブは口づけせんばかりに、右手でアマサのあごひげをつかみ、引き寄せました。 アマサは、ヨアブが左手に短剣を隠し持っているとは知りません。 と、その時、ヨアブはアマサの下腹を、ぐさっと突き刺したのです。 はらわたが地面に流れ出ました。 このひと突きで十分でした。 アマサは死んだのです。 ヨアブと兄弟アビシャイは、倒れたアマサを置き去りにして、シェバを追跡しました。 11 ヨアブ配下の若い将校が、アマサの従者に叫びました。 「ダビデ王に味方するなら、ヨアブ様について来るんだな!」 12 血まみれのアマサは、道の真ん中に転がっていました。 やじうまが大ぜい集まって来たので、将校たちは死体を野原へ運び、着物をかけました。 13 死体を片づけると、みんなはシェバを捕らえようと、ヨアブのあとを追いました。 14 一方、シェバはイスラエル全土を駆け抜けて、ベテ・マアカにあるアベルの町へ行き、自分が属するビクリ氏族に、総決起を呼びかけていました。 15 しかし、追いついたヨアブ軍は町を包囲し、城壁に向かってとりでを築きました。 城壁を打ちこわそうというのです。 16 その時、町の中から、一人の賢明な女が呼びかけました。 「もし、ヨアブ様、ちょっとここまでおいでくださいまし。 お話し申し上げたいことがございます。」 17 ヨアブが近づいて行くと、女は、「ヨアブ様ですね」と念を押しました。…

サムエル記下 21

1 ダビデの治世に、大ききんが三年も続きました。 そのため、ダビデは特別に時間をかけて祈りました。 神様からのお答えはこうです。 「ききんの原因は、サウルとその一族の罪にある。 彼らがギブオン人を殺したからだ。」 2 そこで、ギブオン人を呼び寄せました。 ギブオン人はエモリ人の末裔で、イスラエルには属していませんでした。 もともと、イスラエル人は、彼らを殺さないという誓約を立てていたのです。 にもかかわらず、サウルは熱烈な愛国心から、彼らの一掃を図ったのでした。 3 ダビデは尋ねました。 「あの罪を償いたいのじゃ。 そして君らには、わしらのために神様の祝福をとりなしてもらいたい。 それには、いったい、どうすればいいかな。」 4 「なるほど。 しかし、金でけりのつく問題ではありますまい。 それに、私どもとしても、復讐のためにイスラエル人を殺すようなまねも、したくありませんし。」 「では、どうすればいいのか。 遠慮なく言ってくれ。 そのとおりにしたいのじゃ。」 5-6 「では申し上げます。 血まなこになって私どもを絶滅しようとしたサウルの子、七人をお渡しください。 そいつらを、サウル王の町ギブアで、神様の前にさらしたいと存じます。」 「わかった。 そうするとしよう。」 7 ダビデは、サウルの孫、ヨナタンの息子メフィボシェテのいのちは助けました。 ヨナタンとの間に誓いを立てていたからです。 8 結局、ギブオン人に引き渡したのは、サウルのそばめリツパの息子アルモニとメフィボシェテの二人と、アデリエルの妻となった、サウルの娘メラブが産んだ五人でした。 9 ギブオンの人々は、七人を山で刺し殺し、神様の前にさらし者にしました。 処刑が行なわれたのは、大麦の刈り入れの始まるころでした。 10 処刑された二人の息子の母リツパは、岩の上に荒布を敷き、刈り入れの期間中ずっと〔四月から十月までの六か月間〕、そこに座っていました。 昼は昼で、はげたかが死体をついばむことがないように、夜は夜で、死体を食い荒らす野獣から守るため、見張っていたのです。 11 リツパのこの姿に心を打たれたダビデは、 12-14 その者たちの骨をサウルの父キシュの墓に葬るよう、取り計らいました。 同時に、ヤベシュ・ギルアデから、サウルとヨナタンの骨を持って来ました。ギルボア山の戦いで倒れたサウルとヨナタンを、ペリシテ人がベテ・シャンの広場でさらし者にした時、あとでその遺体を盗み出したのが、ヤベシュ・ギルアデの人々でした。 二人の骨はダビデのもとへ運ばれ、葬られました。 その時、神様はついに祈りを聞いて、ききんを終わらせてくださったのです。 15 ある日、ペリシテ人が戦いをしかけて来たので、ダビデは家来を率いて応戦しました。 しかし、激しい戦闘に、ダビデは弱り果ててしまったのです。 16 その時、穂先の重さだけでも五キロは下らない槍をかつぎ、新しいよろいを着たイシュビ・ベノブという大男が、ダビデを殺そうと近づいて来ました。 17 しかし、ツェルヤの子アビシャイがダビデを助け、そのペリシテ人を打ち殺してしまいました。こんなことがあってから、家来たちは口々に勧めました。 「陛下、二度と戦いにはお出になりませんように。 イスラエルのともしびを吹き消すような危険は冒せません。」…