サムエル記上 16

1 ついに、神様からサムエルにお声がかかりました。 「いつまでサウルのことでくよくよしているのか。 もうわたしは、彼をイスラエルの王位から退けてしまったのだ。 さあ、つぼにいっぱいオリーブ油を満たして、ベツレヘムへ行き、エッサイという人を捜しなさい。その息子の一人を新しい王に選んだのだ。」 2 しかしサムエルは、「めっそうもありません! そんなことがサウルの耳に入ったら、それこそ殺されます」と申し立てました。 神様はお答えになりました。 「雌の子牛を一頭とり、『神様にいけにえをささげに行きます』と言えばよい。 3 そして、いけにえをささげる時に、エッサイを呼ぶのだ。 どの息子に油を注いだらよいかは、そのとき指示しよう。」 4 サムエルはお告げのとおり事を運びました。 ベツレヘムでは、町の長老たちが恐る恐る彼を出迎えました。 「これは、これは、わざわざお越しになりましたのは、何か変わったことでも?」 5 「いや、心配はご無用。 神様にいけにえをささげに来たまでじゃ。 いけにえをささげるため、身をきよめて、ついて来なされ。」 サムエルはエッサイと息子たちに聖めの儀式を行ない、彼らも招きました。 6 彼らが来た時、サムエルはそのうちの一人、エリアブをひと目見るなり、「この人こそ、神様がお選びになった人に違いない」と思いました。 7 しかし、神様はおっしゃいました。 「容貌や背の高さで判断してはいけない。 彼ではない。 わたしの選び方は、おまえの選び方とは違う。 人は外見によって判断するが、わたしは心と思いを見るのだ。」 8 次はアビナダブが呼ばれ、サムエルの前に進み出ました。 しかし神様は、「彼も適任ではない」と断言なさるのです。 9 続いてシャマが呼ばれましたが、神様からは、「これもわたしの目にかなわない」という返事しかありません。 同様にして、エッサイの七人の息子が、サムエルの前に立たされましたが、みんな神様から退けられたのです。 10-11 サムエルはエッサイに念を押しました。 「どうも神様は、この息子さんたちのだれをも選んでおられないらしい。 もうほかに息子さんはいないのかね。」 「いいえ、まだ一番下のがおります。 今、牧場で羊の番をしておりますが。」 「すぐ呼びにやってくれ。 その子が戻るまで、食事はお預けだ。」 12 エッサイはすぐに迎えにやりました。 美しい容貌をした、紅顔の少年で、きれいな目を輝かせていました。 その時、「この者だ。彼に油を注げ」と、神様の声がしました。 13 ダビデは兄弟たちの真ん中に立っていました。 サムエルは持って来たオリーブ油を取り、ダビデの頭に注ぎかけました。 すると、神の霊がダビデに下り、その日から、偉大な力を身に受けたのです。 こののち、サムエルはラマへ帰りました。 14…

サムエル記上 17

1 ところで、ペリシテ人は軍隊を召集して戦いをしかけ、ユダのソコとアゼカとの間にあるエフェス・ダミムに陣を敷きました。 2 サウルは応戦するため、エラの谷に兵力を増強しました。 3 こうしてペリシテ人とイスラエル人は、谷を隔てた丘の上で、にらみ合ったのです。 4-7 その時、ゴリヤテというガテ出身のペリシテ一の豪傑が、陣営から出て来て、イスラエル軍に向き直りました。 身長が三メートル以上もある巨人で、青銅のかぶとをかぶり、百キロもあるよろいに身を固め、青銅のすね当てを着け、十二キロもある鉄の穂先のついた、太い青銅の投げ槍を持っていました。 盾持ちが、大きな盾をかかえて先に立って歩いていました。 8 仁王立ちのゴリヤテは、イスラエルの陣営に響き渡るように、大声で叫びました。 「よく、こうも大ぜいそろえたもんだな。 おれはペリシテ人の代表だ。 おまえらも代表を一人選んで一騎打ちをし、それで勝負をつけようじゃないか。 9 もし、おまえらの代表の手にかかっておれ様が倒れでもすりゃあ、おれたちは奴隷になるさ。 だがな、このおれ様が勝ちゃあ、おまえらが奴隷になるんだ。 10 さあ、どうした。 イスラエル軍には人がいないのか。 おれと戦う勇気のあるやつは出て来い。」 11 サウルとイスラエル軍は、これを聞いてすっかり取り乱し、震え上がってしまいました。 12 ところで、ダビデには七人の兄がいました。 ダビデは、ユダのベツレヘムに住む、エフラテ人エッサイ老人の息子でした。 13 三人の長兄、エリアブとアビナダブとシャマは、この戦いに義勇兵として従軍していたのです。 14-15 末っ子のダビデは、サウルの身辺の警護にあたりながら、時々ベツレヘムへ帰り、父の羊を飼う仕事を手伝っていました。 16 ところで、例の巨人は、四十日間、毎日、朝と夕の二回、イスラエル軍の前に姿を現わし、これ見よがしにのし歩いてみせるのでした。 17 ある日、エッサイはダビデに言いつけました。 「さあ、この炒り麦一枡と、パン十個を、兄さんたちに届けてくれないか。 18 このチーズは隊長さんに差し上げてな、あの子たちの様子を見て来ておくれ。 手紙をことづかるのも忘れんようにな。」 19 サウルとイスラエル軍は、エラの谷に陣を敷いていました。…

サムエル記上 18

1-3 王が一とおりの質問を終えたあと、ダビデは王子ヨナタンに紹介されました。 二人はすぐに仲良くなり、深い友情で結ばれました。ヨナタンはダビデを義兄弟にすると誓い、 4 自分の上着、よろいかぶと、剣、弓、帯を与えて、盟約を結んだのです。 王は、今やダビデをエルサレムにとどめ、もはや家に帰そうとはしませんでした。 5 ダビデは王の特別補佐官として、いつも任務を完全に果たしました。 それでとうとう、軍の指揮官に任命されたのです。 この人事は、軍部からも一般からも、大いに喜ばれました。 6 ところで、ダビデがゴリヤテを倒したあと、勝ち誇ったイスラエル軍が意気揚々と引き揚げて来た時、ちょっとしたことが起こったのです。 あらゆる町々から沿道にくり出した女たちが、サウル王を歓迎し、タンバリンやシンバルを鳴らして、歌いながら喜び踊りました。 7 ところが、女たちが歌ったのはこんな歌でした。「サウルは千人を殺し、ダビデは一万人を殺した!」 8 これを聞いて、王が腹を立てないはずはありません。 「何だと。ダビデは一万人で、このわしは千人ぽっちなのか。 まさか、あいつを王にまつり上げる気じゃなかろうな。」 9 この時から、王の目は、ねたみを帯びてダビデに注がれるようになりました。 10 事実、翌日から、神様に遣わされた悩みの霊がサウル王に襲いかかりました。 すると、まるで狂人のようにわめき始めたのです。 そんな王の心を静めようと、ダビデはいつものとおり竪琴をかなでました。 ところが王は、もてあそんでいた槍を、 11-12 いきなり、ダビデめがけて投げつけたではありませんか。 ダビデを壁に突き刺そうというのです。 しかし、さっと身をかわしたダビデは、危うく難を逃れました。 一度ならず二度も、そんなことがあったのです。 それほど王はダビデを恐れ、激しい嫉妬にかられていました。これもみな、神様がサウル王を離れて、ダビデとともにおられたからです。 13 とうとう王は、ダビデを自分の前から退けることにし、職務も千人隊の長にまで格下げしました。 しかし王の心配をよそに、ダビデはますます人々の注目を集めるようになったのです。 14 ダビデのやることなすことは、みな成功しました。 神様がともにおられたからです。 15-16 サウル王はますますダビデを恐れるようになりました。 イスラエルとユダの人々はみな、ダビデを支持しました。 ダビデが国民の側に立って行動したからです。 17 ある日、王はダビデを呼んで言いました。 「わしはおまえに、長女のメラブをやってもよいと思っておる。 そのためにまず、神様の戦いを勇敢に戦い、真の勇士である証拠を見せてくれ。」 王は内心、「ダビデをペリシテ人との戦いに行かせ、敵の手で殺してしまおう。 わしの手を汚すまでもない」と考えたのです。 18 ダビデは答えました。 「私のような者が王家の婿になるなど、とんでもございません。 父の家系は取るに足りません。」 19…

サムエル記上 19

1 ついにサウル王は、側近や息子のヨナタンにまで、ダビデ暗殺をそそのかすようになりました。 しかしヨナタンは、ダビデと深い友情で結ばれていたので、 2 父のたくらみをダビデに知らせました。「あすの朝、野原に隠れ場所を見つけ、潜んでいてくれたまえ。 3 おやじをそこまで連れ出すから。 そこで、君のことについて話をする。何かわかったら、さっそく知らせるよ。」 4 翌朝、ヨナタンは父と話し合い、ダビデの正しさを力説し、敵視しないでくれと頼みました。 「ダビデは、一つも害をもたらしたりしていませんよ。 それどころか、いつも精一杯、助けてくれました。 5 彼が命がけでゴリヤテを倒した時のことを、お忘れになったんですか。 その結果、神様がイスラエルに大勝利をもたらしてくださったのではありませんか。あの時、父上はほんとうにお喜びになりました。 それなのに、なぜ今になって、罪もない者を殺害しようとなさるんです? そんなことをする理由など少しも見あたりません。」 6 ついにサウル王もうなずき、「神様が生きておられる限り、ダビデは殺さない」と誓いました。 7 あとで、ヨナタンはダビデを呼び、そのいきさつを話しました。 そしてダビデを王のところへ連れて行くと、すべてが元どおり平穏に取り計られるようになりました。 8 まもなくして戦いが始まりましたが、ダビデは兵を率いてペリシテ人と戦い、多数を討ち取りました。ペリシテの全軍は旗を巻いて遁走したのです。 9-10 ところが、ある日のことです。 サウル王は家で腰かけ、ダビデのかなでる竪琴に耳を傾けていました。 と、その時、急に、神様から遣わされた悩みの霊が王を襲ったのです。 あっという間もなく、王は手にしていた槍をダビデに投げつけ、刺し殺そうとしました。ダビデはとっさに身をかわし、夜になるのを待って逃げ出しました。槍は壁の横木に突き刺さったままでした。 11 王は兵をやってダビデの家を見張らせました。 朝になって出て来るところをねらって、殺そうというのです。 ミカルはダビデに危険を知らせました。 「逃げるなら、今夜のうちですわ。 朝になったら殺されてしまいます。」 12 ミカルはダビデを助けたい一心で、窓から地面につり降ろしてやりました。 13 そして、代わりに偶像を寝床に入れ、すっぽり毛布をかけました。 頭は山羊の毛で編んだものを枕にのせました。 14 そこへ、ダビデを捕らえて王のもとへ連行しようと、兵隊たちが踏み込んで来ました。 ミカルは、ダビデは病気で、ベッドから動かせないと告げたのですが、 15 王は、ベッドごとでも連れて来るように命じました。 そのまま殺してしまうつもりだったのです。…

サムエル記上 20

1 今や、ラマのナヨテも危険です。 ダビデは逃げ出し、ヨナタンに会いに来ました。 ダビデは言いました。 「私が何をしたというのだろう。 なぜ、お父上は私なんかの命を、つけねらわれるのだろう。」 2 「そんなばかな! おやじが、そんなことをたくらんでいるはずがない。 どんなささいなことでも、自分の考えを私に話してくれるんだよ。 まして、こんなことを隠し立てするはずがないじゃないか。ありえないことだよ。」 3 「そうは言うけれど、君が知らないだけだよ。 お父上は、私たちが親友だってことも、よく知っておられる。 だから、『ダビデを殺すことは、ヨナタンには黙っておこう。 悲しませるといけないから』と思っておられるに違いない。 ほんとうに、私は死と背中合わせなんだ。 神様と、君の命にかけて誓うよ。」 4 「何か、してあげられることがあるかい。 遠慮なく言ってくれ。」 5 「あすから新月の祝いが始まるね。 これまではいつも、私はこの祝いの席にお父上と同席してきた。 しかし、あすは野原に隠れ、三日目の夕方まで潜んでいるつもりだ。 6 もしお父上が、私のことをお尋ねになったら、こう言ってくれないか。 『ベツレヘムの実家へ行きたいと願い出たので帰しました。 年一回、一族全員が集まるんだそうです。』 7 もしお父上が、『そうか』とうなずかれるなら、私は取り越し苦労をしていたことになる。 しかし、もしご立腹になるなら、私を殺すおつもりだろう。 8 義兄弟の契りを結んだ者として、どうか、このことを引き受けてくれ。 もし私がお父上に罪を犯したのであれば、君の手で私を殺してかまわない。 しかし、私を裏切ってお父上の手に引き渡すようなまねだけは、しないでくれ。」 9 「そんなことするわけがないよ! おやじが君をねらっているとわかったら、君に黙ってなんぞいるもんか。」 10 「お父上が腹を立てておられるかどうか、どんな方法で知らせてくれますか。」 11 「そうだな、いっしょに野原へ出てみよう。」 二人は連れ立って出かけました。 12 ヨナタンはダビデに言いました。 「イスラエルの神様にかけて約束するよ。 あすの今ごろ、遅くともあさっての今ごろには、君のことを話してみよう。 そうして、おやじの気持ちを、さっそく知らせる。 13 もしおやじが腹を立て、君の命をねらっているとわかったら、必ず知らせるよ。 もし知らせずに、君の逃亡を妨げるようなことがあれば、神様に殺されたってかまわない。 かつて神様がおやじとともにおられたように、君とともにおられるように。 14 お願いだ。私が生きている限り、神様の愛と親切を示してくれ。 15…

サムエル記上 21

1 ダビデは祭司アヒメレクに会うため、ノブの町へ行きました。アヒメレクはダビデを見ると、ただならぬものを感じて尋ねました。 「どうして、お一人で? お供はだれもおらんのですか。」 2 「陛下の密使として来たんです。 私がここにいることは、だれにも秘密です。 供の者とは、あとで落ち合う手はずになっています。 3 ところで、何か食べる物はないでしょうか。 パン五つでも、何かほかの物でもいいんですが、いただけましたら……。」 4 「それが、あいにく普通のパンを切らしておりましてね。 あるのは供え物のパンだけですよ。 もしお供の若者たちが女と寝たりしていなければ、それを差し上げてもかまわんのですがね……。」 5 「ご心配なく。 遠征中は、むちゃなまねはさせていませんから。普通の旅でも、身を慎むことになっているんです。 まして、今回のような場合は、なおさらですよ。」 6 そこで祭司は、ほかに食べ物がなかったので、供え物のパンをダビデに恵んでやりました。 神の天幕の中に供えてあったパンです。 ちょうどその日、できたての新しいパンと置き替えたばかりでした。 7 たまたま、その時、サウル王の家畜の管理をしているエドム人ドエグが、きよめの儀式のために、そこにいました。 8 ダビデはアヒメレクに、槍か剣はないかと尋ねました。 「実は、あまりにも急を要するご命令だったもんですから、取るものも取りあえず、大急ぎで出かけて来たんですよ。 武器も持って来なかったしまつです。」 9 「それはお困りでしょう。 実は、あなた様がエラの谷で打ち殺した、あのペリシテ人ゴリヤテの剣があるんですよ。 布に包んで押し入れにしまってあります。 武器といえばそれだけですが、よろしかったら、お持ちください。」 「それはありがたい。 ぜひ、いただこう。」 10 ダビデは急いでいました。 サウル王の追跡の手が伸びているかもしれません。 早くガテの王アキシュのもとにたどり着きたかったのです。 11 ところが、アキシュの家来たちは、ダビデの出現を喜ばないふうで、「あの人はイスラエルの最高首脳ではないか」とうわさしていました。 「いやあ、確かにそうだ。 だれもが踊りながら、『サウル王が殺したのは千人で、ダビデが殺したのは一万人』とか歌って、ほめそやした人に違いないぞ。」 12 ダビデはこんな話をもれ聞いて、アキシュ王が自分をどう扱うかわからないと心配になりました。 13 それで、気違いのふりをすることにしたのです。 戸をかきむしってみたり、ひげによだれをたらしたりしたものですから、 14-15…

サムエル記上 22

1 ダビデはガテを去り、アドラムのほら穴へ逃げのびました。 そうこうするうち、そこに兄弟や身内の者が、おいおい集まって来たのです。 2 そのほか、問題や借金をかかえた者、不満をいだいている連中などが集まって来たので、たちまちダビデは、約四百人の子分を持つ頭領となってしまいました。 3 ダビデはこのあとモアブのミツパへ行き、モアブ王に、事態がはっきりするまで両親を保護してもらえないかと頼みました。 4 それで両親は、ダビデがほら穴に陣取っていた間、ずっとモアブ王のもとにいたのです。 5 ある日のこと、預言者ガドがダビデに、ほら穴を出てユダへ帰るようにとの、神様のお告げを伝えました。 そこでダビデは、ハレテの森へ移ったのです。 6 ダビデがユダに戻ったという知らせは、やがてサウル王に届きました。 ちょうどその時、サウル王はギブアの柳の木の下で、槍をもてあそびながら座っていたところでした。 ぐるりには家来が並んでいました。 7 その知らせを聞いた時、王は声を上ずらせて言いました。 「ベニヤミンの者たちよ、よく聞け! ダビデはおまえたちに畑やぶどう畑をくれ、軍隊の指揮官に取り立ててやるとでも約束したか。 8 なのにどうして、おまえたちはわしを欺いた? だれ一人、わしの息子がダビデに通じていることを、話してくれなかったではないか。 わしのために悲しんでくれる者もおらん。 考えてもみてくれ。 息子が、ダビデがわしを殺しに来るのを助けておるのだ。」 9-10 その時、家来の中に同席していたエドム人ドエグが口を開きました。 「私がノブにおりました時、ダビデが祭司アヒメレクと話しているのを見かけました。 アヒメレクは、ダビデのために神様におうかがいを立て、その上、パンとペリシテ人ゴリヤテの剣を与えたのでございます。」 11-12 王は、直ちに、アヒメレクとその全家族、それにノブにいる祭司全員を呼び寄せました。 一同がそろうと、激しい口調でアヒメレクを責めました。 「よく聞け、アヒトブの息子めっ!」 「何でございましょう。」 アヒメレクはびくびくしながら答えました。 13 「おまえはダビデとぐるになって、このわしに盾つく気か。 どうして、ダビデにパンと剣を与えたり、神様におうかがいを立ててやったりしたんだ。 あいつをたきつけて謀反を起こさせ、わしを攻めさせるつもりだったんだな。」 14 「とんでもございません。 陛下のご家来方の中でも、婿殿のダビデ様ほど忠義なお方は、ほかにございますまい。 ダビデ様は陛下の護衛隊長であり、王室で最も尊敬を集めているお方ではございませんか。 15 私があの方のために神様におうかがいを立てましたのも、今に始まったことではございません。 このことで私や一族の者が責めを受けますのは、合点がまいりません。 陛下に対する陰謀などとは、全く寝耳に水でございます。」 16 「アヒメレクめ、一族もろとも命はないものと思え!」 17…

サムエル記上 23

1 ある日、ペリシテ人がケイラの打穀場を襲ったという知らせが、ダビデに届きました。 2 ダビデは、「ペリシテ人を攻めに行くべきでしょうか」と、神様にうかがいを立てました。 「よし、ケイラを救いに行け」とのお答えです。 3 ところが、配下の者は、「ユダにいてもこわいくらいですのに、とてもケイラまで行って、ペリシテ全軍を向こうに回す勇気などありません」と反対します。 4 もう一度、神様にうかがいを立てたところ、再びお答えがありました。 「ケイラに行け。 わたしが助けてペリシテ人を征服させよう。」 5 一行はケイラに急行し、ペリシテ人を殺して家畜を没収しました。こうして、ケイラの住民は救い出されたのです。 6 祭司エブヤタルもダビデとともにケイラへ行き、神様からお告げを受けるために、エポデを携えて行きました。 7 まもなく、ケイラにダビデが現われたことは、サウル王の耳にも入りました。 「チャンスだ! 今度こそ、ひっ捕らえてやるぞ。 神様がわしの手に、あいつを渡してくださったのだ。 城壁に囲まれた町の中に飛び込んでくれた、というわけだ。」 8 王は全軍を率いてケイラに進軍し、ダビデとその一党を包囲しようとしました。 9 王の魂胆を見抜いていたダビデは、祭司エブヤタルにエポデを持って来させ、どうしたらよいか、神様にうかがわせました。 10 ダビデは尋ねました。 「イスラエルの神様。 サウル王が襲って来て、ケイラを滅ぼすそうです。 私がここにいるからです。 11 ケイラの人々は私を引き渡すでしょうか。 また、王が攻めて来るという知らせは本当でしょうか。 イスラエルの神様。 どうか、お教えください。」 「攻めて来る。」 12 「では、ケイラの人々は、サウル王のために私を裏切るでしょうか。」 「そのとおり。 彼らは裏切る。」 13 そこで、ダビデとその配下の約六百人は、ケイラを抜け出し、片田舎をさまよいました。 ダビデ脱出の報が届くと、王はケイラ攻略を断念しました。…

サムエル記上 24

1 ペリシテ人との戦いから戻ったサウル王は、ダビデがエン・ゲディの荒野に向かった、と知らされました。 2 そこで三千の兵をよりすぐり、野生の山羊のたむろするエエリムの岩のあたりで、ダビデを捜し回ったのです。 3 羊の群れの囲いに沿った道まで来た時、王は用を足そうと、とあるほら穴へ入って行きました。 ところが、驚くなかれ、そのほら穴こそ、ダビデとその手下の隠れ家だったのです。 4 手下の者は、「絶好のチャンスです! 神様は、『わたしはサウルをおまえの手に渡す。 思いどおりにせよ』とおっしゃったではありませんか。 いよいよ、その時がきたのです」とささやきました。そこでダビデは、はうように進み、王の上着のすそを、そっと切り取りました。 5 ところが、そのことで彼の良心は痛みだしたのです。 6 「ああ、なんてことをしてしまったんだ。 とにもかくにも、神様が王としてお選びになった人に手を下すなんて、大それたことではないか。」 7-8 このダビデのことばには、皆にサウル殺害を思いとどまらせるに十分な説得力がありました。 王がほら穴から立ち去ると、ダビデも背後からついて行き、「陛下!」と大声で呼びかけました。 王が振り向くと、目の前で、ダビデが地にひれ伏しているではありませんか。 9-10 「陛下はなぜ、私が謀反を企てている、などという人のことばに耳をお貸しになるのですか。 たった今、それが根も葉もないことだとおわかりになったはずです。 先ほどのほら穴の中で、神様は、陛下が私に背を見せるようにしてくださったのです。 配下の者は、陛下のお命をちょうだいするようにと勧めました。 しかし私は、それをさえぎったのです。 『陛下に危害を加えてはならない。 この方は、神様がお選びになった王なのだから』と。 11 さあ、これをよくご覧ください。 陛下の上着のすそでございます。 私はこれを切り取りはいたしましたが、お命には手をかけませんでした。 これでもまだ、私が陛下をねらっているとお思いでしょうか。 たとい陛下が私の命をつけねらわれましょうとも、私は謀反の罪など犯してはいないことを、どうかわかっていただきたいのです。 12 私どもの間のことは、神様がおさばきくださいましょう。 もし陛下が私を殺そうとなさるなら、神様の御手が御身に下ります。 私は決して、自ら陛下に手を下したりいたしません。 13 『悪は悪人のすること』という、ことわざがございます。 たとい陛下が悪いとしましても、私は手を下すようなまねはいたしません。 14 いったいイスラエルの王は、だれを捕まえるおつもりなのですか。 なぜ、息絶えた犬や一匹の蚤にすぎない者を追いかけ回して、時間をむだになさるのですか。 15 どうか神様が、どちらが正しいかをさばき、罪を犯した者を罰してくださいますように。 神様が私を弁護してくださり、陛下の手から救い出してくださいますように。」 16 「ああダビデよ。 ほんとにおまえはダビデなのか。」 王は声をあげて泣きだしました。 17…

サムエル記上 25

1 その後まもなく、サムエルが世を去りました。 全イスラエルが葬儀に集まり、ラマにある一族の地所の一角に葬りました。 一方、ダビデはパランの荒野に下って行きました。 2 ところで、カルメル村の近くにマオン出身の裕福な人がいて、大きな牧場を持っていました。 羊三千頭、山羊千頭がいましたが、ちょうどそのころ、羊の毛の刈り取りが行なわれていたのです。 3 牧場主の名はナバルといい、妻はアビガイルという名で才色兼備の誉れ高い婦人でした。ところが、夫のほうは、カレブの子孫なのですが、けちで頑固で、行状もよくないときています。 4 さて、ナバルが羊毛の刈り取りの最中だと聞いたダビデは、 5 若者を十人カルメルにやり、こう言わせました。 6 「神様の祝福があなたとご一家に注がれ、ますます富を増し加えてくださいますように。 7 あなたが羊と山羊の毛を刈っておられる、とうかがいました。 以前お宅の羊飼いたちとともに居合わせたことがありますが、私どもは害を加えたりしたことはありません。 また、カルメル滞在中も、盗みを働いた覚えはありません。 8 お宅の若い衆にお聞きください。 それが本当かうそか、話してくれましょう。 さて私は今、わずかばかり無心したく、家来を遣わした次第です。 ちょうどおめでたい日でもあり、お手もとにある物を、少しばかり恵んではいただけますまいか。」 9 若者たちはダビデのことばを伝え、ナバルの返事を待ちました。 10 ところが、ナバルからはこんな答えが返ってきました。 「ダビデだと? やつがどうした。 エッサイの息子だか何だか知らんが、いったい何様のつもりでいやがるんだ。 このごろは、主人のもとから逃げ出す奴隷がわんさといる。 11 どこの馬の骨だかわからんやつらに、わしのパンや水や、それに刈り取りの祝いのために殺したこの肉を、どうして、くれてやらにゃならんのだ。」 12 使いの者は帰って、ナバルが言ったとおり報告しました。 13 するとダビデは、「みんな剣を取れ!」と命じ、自分も剣を身につけ始めました。 四百人がダビデとともに出立し、あとの二百人は持ち物を守るために残りました。 14 そうこうしている間のことです。 ナバルの下僕の一人が、アビガイルに一部始終を知らせたのです。 「ダビデ様がだんな様に、荒野から使者を立て、あいさつしてこられましたのに、だんな様ときたら、さんざんその方々を侮辱したり、なじったりなさったんです。 15-16…